ウェブサイト運用にブランディング戦略を取り入れよう【傾向と対策】
いま書店のビジネス書コーナーに行くと、「ブランディング」というキーワードを冠した書籍が数多く棚に並んでいます。webやSNSの世界でも「ブランディングが大切だ」という声を目にしたり、耳にする機会が増えてきました。
ブランディングは、不思議な言葉です。なんとなく分かるようで、具体的に何をするのかとなると今一つはっきりしません。本を読んでも人によりブランディングの解釈が異なったり、範囲が漠然としていたりと、意外に理解することが難しい概念です。
この記事では、これからwebサイトを構築しようと考えていたり、既にwebの戦略や展開にかかわっていて、そこにどうブランディングを絡ませていけばよいか悩んでいる担当者に向けて、基本的な内容を解説しています。
1.注目される「ブランディング」というキーワード
1-1.Googleトレンドで調べてみる
近年、企業戦略において「ブランディング」というキーワードの注目度が上昇しています。
試しにこの言葉をGoogleで検索してみてください。優に1,900万件を超えるサイトが表示されます。
Googleトレンドを用いて、2004年1月から現在までに至る「ブランディング」の検索インタレスト変遷状況を調べてみました。
2016年以降、キーワードへの関心度を示す検索ボリュームが、それ以前の5年間(2011年~2015年)に比べて、大きく増加に転じていることが波形から見て取れます。
1-2.ビジネス書籍の動きは?
このトレンドを裏付けるように、ブランディングに関連したビジネス書籍の発行数も、近年大幅な伸びを見せています。
このグラフは、amazonで取り扱っている「ブランド」および「ブランディング」関連書の、年ごとの新刊数を示したものです。
検索範囲を「ビジネス・経済」のカテゴリーに限定し、「ブランド」をキーワードに指定して検索にかかったものをブルー、「ブランディング」のキーワード検索で選出されたものをオレンジで示しています。
どちらのグラフも右肩上がりの伸長を見せていることがわかりますが、近年の伸びは特に「ブランディング」で顕著です。
以前は「ブランディング」ではなく「ブランド」という語句をキーワードとする書籍が圧倒的に多かったのですが、2018年以降より「ブランディング」の関連書籍が増加し、この1、2年で両者の差はほとんどなくなりました。ビジネスの現場で「ブランディング」という言葉が定着しつつあることを表しています。
2.ブランディングを戦略的にウェブサイトに取り入れるには
注目度が上昇しているブランディング。ではこの概念を具体的にwebサイト構築に取り入れていくためには、どのような取り組みをしていけばよいのでしょうか。
2-1.ブランドの接触点を俯瞰する
webマーケティングでよく用いられるフレームに「カスタマージャーニー」があります。これは顧客の購買行動について順を追って想定し、どのような場面の、どのような体験が顧客の意思決定に影響を与え、さらにその後の顧客行動がマーケットにどのような効果をもたらすのか、を具体的に設計するものです。
ブランディングにおいては、このカスタマージャーニーを最大限まで拡大し、コミュニケーションの対象であるステークホルダー各々との接触点=タッチポイントをあらかじめ俯瞰することが重要です。
ブランディングの最も中心に位置するのは、ミッションやビジョン、バリュー、あるいはコンセプトやプロミスなどと一般に呼ばれるブランドの理念要素です。そのブランドが何を目指し、どんな価値を社会に提供しどのような存在でありたい、と考えるのか。これを事業の形に翻訳し、商品・サービスや組織、店舗、流通や広報・広告など具体的なタッチポイントを形成します。
2-2.重要性を増すデジタルのタッチポイント
タッチポイントには、デジタルとノンデジタルのチャネルがあります。実際の商品やサービスそのもの、また店舗や人を介在したコミュニケーションは、原則としてノンデジタルです。webサイトやSNS、メルマガなどはデジタルのチャネルに属します。
現在では、カスタマージャーニーの中でデジタルチャネルが占める部分が非常に大きくなっています。前章で述べたように、人々は店に行くとき、商品を買うとき、リサーチするとき、ひとまずスマホを使って検索します。この時の体験(エクスペリエンス)がブランド形成に大きく影響するのです。
2-3.大切なのはメッセージの一貫性、整合性
注意すべきは、ブランドから発せられるメッセージの一貫性、整合性です。食品の偽装表示や書類の改ざんなど、企業の不祥事がたびたび話題になりますが、これらはブランドを大きく傷付けます。特に「ブランドプロミス」や「ブランドミッション」として掲げている理念や、その事業なら当然共有されているべき世界観に相反する状況が表面化すると、信頼性が著しく損なわれます。
それを防ぐためには、
- ブランドの中心に位置する理念要素を明確にする【マインドの確立】
- 理念要素の理解・共感を進め、実際の事業へ翻訳する【ビジュアル、ビヘイビアおよびビジネスモデルの確立】
- 対象者との的確な接点(タッチポイント)の設計、実践
- コミュニケーション状況の把握と検証、フィードバック
というPDCAの視点が不可欠です。
2-4.デジタルとノンデジタルを共鳴(シンクロ)させる
webサイトやSNSなどのデジタルチャネルは、ともすればイメージ先行のクリエイティブに陥ったり、個別のマーケティングに基づいた施策で運営されたりしがちです。もちろん、対象者や状況に応じた適切なコミュニケーションはそれぞれの現場が担うべきものですが、その前提となるブランドの世界観は、戦略として部署や担当者に共有されていなければなりません。
ブランドの印象を形成するのは、顧客をはじめとする対象者がタッチポイントで体験するビジュアル要素、ビヘイビア要素です。リアルの店舗で目にする店舗のイメージや接客態度、商品・サービスの品質と、webサイトで体験するビジュアル世界、ユーザビリティ、コンテンツから受ける印象が乖離することなく、しっかり造り込まれていれば、望ましいブランドイメージが確立されていきます。
3.拡大するブランディングの概念
3-1.より身近になってきたブランディング
では、ここにきてブランディングに対する関心の度合が高まってきているのは、なぜでしょうか。
改めて「ブランディング」関連書籍の刊行数を見ると、2014年までは毎年20冊前後で推移していたのが、2015・16年では40冊台、2018年には65冊と急激に増加しはじめ、2020・21年になると120冊前後にまで伸びています。
これらの書籍のタイトルには、その時々で注目を集めるテーマやキーワードが反映されています。
わが国で「ブランド」という概念が一般に浸透し始めたのは、1994年1月に邦訳されたD.A.アーカーの「ブランド・エクイティ戦略」(ダイヤモンド社)の出版が契機です。2010年代半ばあたりまではアーカーに導かれた潮流の影響で、ブランドはマーケティング上の戦略テーマとしてとらえられていました。そのため刊行される書籍も「グローバル」や「コーポレート」といった、大きな概念と親和するタイトルが主流を占めていたのです。
しかし2015、16年頃から徐々に「個人」や「セルフ」、「小さな会社」といった単語が書籍のテーマとして加わりはじめ、ついで「エコ」「CSR」のような環境に関するワードも用いられるようになります。
3-2.時代と共にブランディングの領域が拡大
やがて時代環境の変化と共に、ブランディングと共に語られるキーワードは
- 「web」「デジタル」「SNS」「コンテンツ」「データマーケティング」…デジタルコミュニケーションの領域
- 「SDGs」「サステナブル」「社会課題」「多様性」…持続可能な共生を志向する環境の領域
- 「セルフ」「ひとり起業家」「副業」「スモールビジネス」…働き方改革を背景としたワーキングスタイルの領域
- 「企業内」「インターナル」「採用」「自立と共創」…組織内エンゲージメントにかかわる領域
などの、より幅広い領域へと拡がっていきました。その一方で「戦略」「本質」「本物」「パーパス」など重量感のあるワードも、変わらず重要な要素となっています。
3-3.ブランディングは「関係性構築」のプロセス
ブランディングという言葉がこのように幅と深度を拡張しているのは、まさに「Brand+ing」という現在進行形の、関係性構築プロセスに重点を置いた概念だからです。「ブランド」とは、発信者が思い描く「あるべき姿」をユーザーと共有した結果として、形成されるイメージ像のことです。それを構築するために行われ続ける「ing」の活動、これが「ブランディング」であり、ゆえに常にPDCAサイクルを回しながらアップデートしていくものなのです。
3-4.本質的には「経営戦略」
またブランディングの対象者は、消費者に限ったものでもありません。ブランドの周囲には従業員やその家族、協力会社、取引先、地域の人々、株主、一般社会といった多くのステークホルダーが存在します。そのそれぞれに対し、例えば従業員に対してはインナーエンゲージメント、取引先や協力会社に対してはケイパビリティの強化など、目的に応じたブランディングを行っていく必要があります。
- ブランディングが包含する領域が拡がっている
- ブランディングは関係性構築のプロセスなので、常にPDCAを回し続ける
- ブランディングの対象者が多様化・多層化している
ブランドではなくブランディングが重要視されているのは、こうした理由によるものです。こうなると単なるマーケティングの領域を超えて、ブランディングは経営戦略・事業戦略のレベルになります。
3-5.インターネットメディアの活用
実はアーカーの時代から、ブランド構築の本質は戦略的視点を持つことにありました。しかし当時は広告会社主導のケースが多かったこともあり、どうしても広告やビジュアルイメージ構築が主体になったのです。コミュニケーションメディアもほぼマスによって独占されていたために、情報の流通を有視界でコントロールすることも困難でした。
現代ではインターネットを使って個人や小規模の事業者でも、容易にステークホルダーとの情報交流が可能です。人々は店に商品を買いに行く前に、どんなアイテムがどこで、いくらで売られているのかをスマホで検索するようになっています。求職者は働きたい職場の実情を、掲示板やSNSを通じて事前に把握しようとします。企業はこれらの人々の脳裏に、望ましいブランドの像を築いてもらうことを目指して、コミュニケーションに力を注がなくてはなりません。
4.ブランディング前史・「ブランド」戦略の時代
ここからは参考として、ブランディングがまだ流行となる以前、ブランドが最前線だった時から現在までの流れをご紹介します。
4-1.きっかけはアーカーの「ブランド・エクイティ戦略」
前章で「ブランド」という概念の浸透は、アーカーの「ブランド・エクイティ戦略」がきっかけだった、と述べました。それ以前にもブランドという考え方や言葉は存在していましたが、それはラグジュアリーなハイファッションや、大企業が広く展開する商品ブランドのこと、という印象が強いものでした。
アーカーの著作は広告やマーケティングの現場で個別に論じられていた議論を体系化し、ブランドにイメージ資産としての可能性を付与したという点で、革新的だったのです。
ただ当時はまだブランディングという言い方は一般的でなく、戦略の結果として得られる価値のことを「ブランド」と呼ぶことが多かったようです。
4-2.ブランドからブランディングへ
その後広告代理店やコンサルティング会社がブランド戦略の導入を企業に推進し、1990年代から2000年代にかけて、ブランドイメージの刷新やメディアを活用してのブランドコミュニケーションが活発に行われました。ブランド関連書籍が書店のビジネス書コーナーに山積みされ、日本テレビは「日テレブランド」を自社スローガンとして採用します。フジテレビはその名も「ブランド」というタイトルのドラマを放映、広告業界はブランド一色に塗りつぶされた感がありました。
しかし、わが国が経済的な低迷期に入るといつしかその熱は沈静化し、企業の関心は事業の再構築や効率化、価格競争へと向かうようになります。リーマンショックや自然災害、派遣切り、現代の貧困など「ブランドどころではない」深刻な状況が続いたのです。
人口減少と少子高齢化は、労働生産性の低下と国内市場の縮小をもたらします。その中で、技術の革新や社会的意識の向上など変化する環境に伴い、商品・サービスも新たな価値感を表明、提供していくことが重要になってきました。
ブランディングは、そんな時代の要求から必然的に求められた考え方と言えるでしょう。
5.まとめ
今回の記事では、
- ブランディングが注目を集めている
- ブランディングを戦略的にwebに取り入れるには
- 1990年代に盛んだった「ブランド戦略」
- 「ブランディング」が重要視される理由
という内容を簡単に解説して参りました。
記事の中でも述べてきましたが、ブランディングはその範囲が広く、様々なものを包含するとても大きな概念です。多くの先人が多数の論文・書物を著しているように、理解しようとすればするほど新たな世界が広がっていきます。